高橋・三船離婚問題――モラハラでなくDVととらえ破綻主義で対応すべき



ロックバンド「THE虎舞竜」のボーカル、高橋ジョージさん(56)と女優の三船美佳さん(32)について、2015年1月に妻の三船さんが夫に対し離婚と1人娘(10)の親権を求める裁判を始めたことで関係の悪化が発覚しました。その1年前から別居し、三船さんから離婚調停をおこしましたが不調に終わったとのことです。

その背景にはDV的なこと(モラルハラスメントと言われているが内容的にはDV)があった模様です。

以下はどこまでが真実かは不明ですが、各種報道によるものです。

 

具体的には、自宅に夫・高橋さんがいる時、妻・三船さんは仕事以外は外出できない“外出禁止令”を出されていて、その他のこともあって精神的な苦痛を感じていました。三船さんは学生時代には部活を禁止されていました。食卓には毎回、高橋の好物を一品入れることになっており、食事はどんなに夫の帰りが遅くなっても家族一緒に食べるルールでした。1日のスケジュールをすべて報告しないといけないことにもされていました。


三船さんのギャラ(収入)の分も含め家計は高橋さんが管理し、妻は小遣いをもらう関係。別居することになって、自分のギャラともらっていた小遣い額のギャップに驚いた状態。つまり三船さん自身の収入の情報も三船さんには十分には伝えられていませんでした。三船さんの出演衣装はチェックされ、生脚や胸が見えるものは注意されました。


高橋さんは家でも外でも、四六時中自慢のリーゼントを崩さず、髪形を維持するために就寝時も大量の整髪料をつけているということでそれも嫌だったとのことです。


また三船さんが仕事を終えて帰宅すると、高橋さんから長時間、人格を否定されるような言葉、「お前は人間としての価値もない」「生きていく資格もない」「お前が生きているのは、オレのおかげだ」などという言を浴び、それが耳元で大きな声の時もありました。未明まで連夜続くこともあり、眠る時間もなく仕事に出掛け、次第に身も心もボロボロになったといいます。三船さんは高橋さんが怖い状態になりました。


そういうことが重なり、自分の収入が自分のモノになっていないことが嫌だとか、青春時代を返してほしい気持ちにもなり、家を出る覚悟を決めたとのことです。。


三船さんは「20歳代ごろかな? 離婚を最初に考えたのは。でも、今回の決断は人生の転機なので、ものすごい慎重に考えた」、「夫から離れて、自分の足で歩いてみたい」などと言っています。

「(別居し、離婚を決めている)今が本当に幸せ。母として女性として新しい人生を歩み、成長していきたい。決断は変わりません」「120%戻る意思ない」「できるだけ早く、一番いい形で(離婚が成立する)そういう日を迎えられたらいいと思う」といい、高橋さんからの電話も受信拒否しているので、離婚の意思は固いとみるべきでしょう。

高橋さんは直接的には、DVは認めてはいませんが、心当たりを聴かれて「いけなかったところはなんぼでも。欠陥的なものが歩いている感じなんだから。やっぱりロックをやってるから、並大抵の自己主張じゃない。オレが自分の妻なら嫌ですよ」と述べたり、「僕が自己主張が強いタイプ」「お互いの行動はチェックしてました。それが夫婦ですから」とも言っています。自身の非を一定認めています。


しかし、「浮気も1回もないし、暴力も振るったことがない。酒で暴れることもない。性格(の不一致)なのかなって思うしかない」、禁止令はうちには存在しない。ママ友とのカラオケもオールナイトで行くと言えば、僕が迎えに行くよと言っていた。行動はいちいちチェックしますよ。夫婦とはそういうものでしょう」と語って自分のしていたことがDVであるとは認識していないことを示してもいます。


スポーツ新聞にモラルハラスメントって書いてあったけど、流石(さすが)にそれはないな」と否定したり、「夫婦としてやり直せたらいいと思っている」、「自分は夫婦げんかの延長と思っている」、「何で裁判になるのか分からない」、「残り1%でもオレは踏ん張りたい」などと語って、DVではないという認識を繰り返し、復縁の意思を言い続けています。


 高橋さんは裁判では離婚の請求の棄却を求めています。三船さん側は離婚したいというのに、高橋さん側は「全く心当たりのない提訴になっている。子どもを第一に考えるなら、結論はどちらにしても、人を介してでも(三船さん)本人と話し合いたい」、「最高に愛している」と述べています。離婚せず、夫婦関係を継続することを「不可能に近くても、不可能じゃない」と諦めない意向を語っています。

二人は1997年5月(三船14歳)に知り合い、11月(三船15歳)の初デートでお互いに結婚を決意し、法律的に婚姻が可能となる16歳の誕生日を迎えた98年9月12日に当時、40歳の高橋と結婚しました。女子高生とロッカーの24歳差の年の差婚として話題になりました。

 

この問題は、日本の夫婦関係の諸問題をよく表していると思います。

 

報道されていることが事実とすれば、一種の精神的DV、束縛系のDVと言えますが、それをDVと夫が認識せず、また被害者側も世間も「モラルハラスメント(モラハラ)」という言い方でごまかしている(ゆるく表現している)という問題があります[1]


三船さんサイドが提出した証拠にモラハラに関する本2冊が含まれていたとのことですが、DVだとしてとらえていくべきでしょう。


三船さんは若いしDV予防教育も受けていなかったので、高橋さんの言動を最初は普通のことだと思っていたのでしょう。しかし周囲の心配を受け、次第に窮屈に感じるようになり、モラハラの本などを見ておかしいと確信するようになっていったのだと思います。

 

またこのモラハラに関して、幾人かの弁護士などの発言などをうけて、テレビでは「モラハラでは離婚は難しいから三船さんも裁判では離婚は難しいのではないか」という言説が飛び交っていました。しかしこれもおかしなことです。


正しくは、精神的DVでも証拠があれば十分離婚原因になる。つまりモラハラでも離婚原因になる」ということです。しかし身体暴力でも、精神的暴力でも、証拠がなければ立証が難しいために、離婚となるかどうかは微妙です。双方の証言の信用性や状況などから総合的に考えることになるでしょう。


もし精神的なDVでは離婚は無理という弁護士がいたとすれば、それは弁護士がDVを軽視し古い感覚でいるということだと思います[2]


DVの程度が問題になりますが、DVは十分離婚原因になりうるのですから精神的DVも離婚原因になります。もちろん別居の実態も考慮されます。


これに大きく関連するのが、片方が離婚したいと言えば他方は離婚に応じることが大事なのに、それに抵抗して相手の希望を尊重しないという問題です。20154月時点で、高橋さんはそうなっていますから、それ自体がDV的です。


モラハラでは離婚できないというようなことを言っている人は、この点も分かっていないのです。


そもそも、離婚はシングル単位感覚で破綻主義(愛情関係がなくなれば、片方が別れたくないと言っても離婚を認めること)にすべきであり、日本の司法がまだそこで躊躇していることが問題なのです。


ここについては拙著で繰り返し主張してきましたが、特に「別れについての新しい考えの必要性」ということで『デートDV・ストーカー対策のネクストステージ』で詳しくまとめました

それがわかっていないことの典型がこの高橋さんと三船さんの問題です。弁護士もマスメディアも高橋さんも世間も「別れの考え方」を更新できておらず、DV加害者に甘い従来のままの結婚観(別れについての考え)でいることが浮き彫りになっています。

 

◆図表2-6 恋愛するに際しての契約

「恋愛するに際しての契約」

           この恋愛では、相手の自己決定や自由を侵害しないで、お互いの違いを認め合う。具体的には、束縛しない、嫉妬の気持ちから相手の自由などを制限しない、など。


② 相手のすべてを知る権利はないことを確認する。具体的には、相手のプライバシーを侵害しない、事前に誰とどこに行くかなどの報告を義務付けたり、終わった後に報告させるようなことをしない。また携帯のチェックなども行わない。


     片方が別れたいと申し出たら、相手はそれを拒否する権利はなく、別れをうけいれなくてはならない。恋愛関係の契約は、片方が破棄すれば終了とする。


④ 相手と自分の成長や安全(安心)を大切にする。


⑤ 相手の友人関係(異性・同性関係なく)に干渉しない。恋愛関係であっても、恋人以外の人と仲良く交流するのは当然であり、むしろ応援するのが基本であることを認める。


⑥相手の嫌がることを強制しない。相手をコントロールしようとしない。DVを行わない。


⑦ 性役割を押し付けない。

 

 

出所)拙著『デートDV・ストーカー対策のネクストステージ』p71

 

◆図表2-7 「別れについての観型の変更が必要」 

出所)拙著『デートDV・ストーカー対策のネクストステージ』p119

 も見てください。

 

高橋さんが「ちゃんと話せていない。話し合いたい」と言っているのも、DV加害者がよく言うことで、2人きりになって相手を説得したいという典型的な対応です。


報道によると、高橋さんは、「(三船から)離婚の話は一切ない(だから離婚の話はできていない)」といっていますが、実際は2014年2月に、2人の共通の友人が同席し、三船さんが明け方まで、離婚の決意を説明したのですが、高橋さんが怒りだしたので、三船さんはもう話し合えないと思い調停に進んだということです。


この時にも「誰がお前を大きくしてやったと思っているんだ!」と高橋さんが言ったとのことです。「別れたいのか」という高橋さんの言葉に対して明確に三船さんは「うん」と離婚の意思は伝えたということです。

 

またそもそも、出発点から問題があった様に思えます。40歳の男性が15歳の女性と付き合い、16歳になった誕生日に結婚するというのは、将来DV的な関係になる危険性のにおいが強くします。


私が以前から強調しているように、すぐに同棲しよう、結婚しようというような人は、DVの危険性が高いのです。関係を強めることで相手が逃げにくくなるようにし支配を強めるということを――意識してか無意識かは別にして――しているのですから。ですからDVしないように敏感になっていれば、簡単に相手を束縛してしまう結婚関係にもちこもうとはしないはずです。


年齢差がある恋愛はあるでしょうし、あってもいいのですが、16歳というまだまだ先がある人に、結婚という制約をはめるのは危険だし悪いと考えて自制するのが適当でしょう。愛しているならその人の成長をずっと見守り、(結婚でなく)恋愛を続ければいいわけで、10年くらい関係が続いてから結婚するぐらいの思慮が必要です。



文責:伊田広行

伊田広行『デートDV/ストーカー蔓延の実態と背景――― ストップ!デートDV 2』 (電子書籍、Kindle版)より




[1] モラハラとは、「モラル・ハラスメント」、モラルによる精神的な暴力、嫌がらせのことで、略称として「モラハラ」といわれています。無視・暴言・脅迫などの精神的は嫌がらせによって相手を支配しようという行為とされているので、これはまさに精神的なDVと同義です。すでにDV概念があり、DV防止法があるので、DVといえばいいのであって、あえて異なる表現をする必要はありません。「モラル」という言葉は内容を指し示す言葉としては極めて不適切です。DVというと身体暴力というイメージがあるので、モラハラといってそれが問題ある行為だと認識することがあってもいいと思いますが、世間に正しくDVに関する教育が広がればあいまいな「モラル」という言い方でなく、DVだと言ってく方がいいと思います。

[2] 「ハピくるっ!」というTV番組でも、そこに出ている男性弁護士は、「モラハラでは離婚できない」「恋愛関係ではモラハラは成立しない」などといい加減なことを何度も言っていました。